2022年10月2日日曜日

変圧器の等価回路 -漏れインダクタンスと励磁インダクタンス-

前書き

この記事では、漏れ・励磁インダクタンスを用いた変圧器の等価回路を求める。最初に変圧器内部に3種類の磁束が存在することから、漏れ・励磁インダクタンスを定義して、変圧器の電圧・電流関係式を導出する。この関係式に基づいて、変圧器のT型等価回路を示す。さらに、T型等価回路よりもパラメータの測定が容易なL型等価回路も導出する。最後に漏れ・励磁インダクタンスと自己・相互インダクタンスや結合係数との関係を検討する。

変圧器の原理

理想変圧器と実際の変圧器

変圧器の回路記号
変圧器の回路記号は一般に上図が使用される。図の左側を1次側、右側を2次側として、1次側の電圧と電流をそれぞれ$v_{1}$、$i_{1}$、2次側の電圧と電流をそれぞれ$v_{2}$、$i_{2}$とする。変圧比が$N$の変圧器の理想的な特性を下記に示す。
\[ \begin{equation} v_{2} = N v_{1} \end{equation} \]
\[ \begin{equation} v_{1} i_{1} = -v_{2} i_{2} \end{equation} \]
またこれらの関係が成立するとき
\[ \begin{equation} i_{1} = -N i_{2} \end{equation} \]
したがって、理想変圧器の特徴は下記のようになる。
  1. 任意の1次側電圧$v_{1}$を$N$倍した電圧$v_{2}$(2次側電圧)に変換する。
  2. 変圧器での損失はなく、1次側と2次側の瞬時電力の絶対値は等しい。
  3. 1次側と2次側を電気的に絶縁する。
理想変圧器は直流電圧を変換することも可能である。

一般的には、2つの磁気結合したコイルと透磁率の高い磁性材(コア)を用いて変圧器を構成する。このような変圧器は、理想変圧器と比較して、下記の特徴を持つ。
  1. 1次側電圧$v_{1}$を、ほぼ1次側・2次側コイルの巻き数比倍した電圧$v_{2}$(2次側電圧)に変換する。
  2. 変圧器はわずかな損失を発生し、1次側と2次側の有効電力の絶対値は異なる。
  3. 1次側と2次側を電気的に絶縁する。
よって、1次側コイルの巻き数を$N_{1}$、2次側コイルの巻き数を$N_{2}$とすると、
\[ \begin{equation} v_{2} \approx N_{12} v_{1} = \frac{N_{2}}{N_{1}} v_{1} \end{equation} \]

変圧器の磁束

変圧器の磁束
変圧器には3種類の磁束が生じる。1次側コイルのみを鎖交する1次側漏れ磁束$\phi_{l1}$、2次側コイルのみを鎖交する2次側漏れ磁束$\phi_{l2}$、両方のコイルを鎖交する励磁磁束$\phi_{m}$である。1次側コイルの巻き数を$N_{1}$、2次側コイルの巻き数を$N_{2}$として、$N_{12}$は次式で与える。
\[ \begin{equation} N_{12} = \frac{N_{2}}{N_{1}} \end{equation} \]

励磁磁束のほとんどは、透磁率の高いコアを通る経路となるため、上図において、コアの有効磁路長を$l_{e}$、有効断面積を$S_{e}$とすると、アンペールの法則より次式が成立する。ここで、コア内部磁束の一様分布を仮定して、真空の透磁率を$\mu_{0}$、コアの比透磁率を$\mu_{r}$とする。
\[ \begin{equation} \frac{1}{\mu_{0} \mu_{r}} \frac{\phi_{m}}{S_{e}} l_{e} = N_{1} i_{1} + N_{2} i_{2} \end{equation} \]
左辺の$\phi_{m}$の係数は磁束経路の情報によって決まる定数であり、磁気抵抗$R_{m}$とおく。
\[ \begin{equation} R_{m} = \frac{l_{e}}{\mu_{0} \mu_{r} S_{e}} \end{equation} \]
\[ \begin{equation} R_{m} \phi_{m} = N_{1} i_{1} + N_{2} i_{2} \end{equation} \]
上式の両辺に$N_{1}$を乗じて次式を得る。
\[ \begin{equation} N_{1} \phi_{m} = \frac{N_{1}^{2}}{R_{m}} \left( i_{1} + \frac{N_{2}}{N_{1}} i_{2} \right) \end{equation} \]
上式において、次のように置き換える。
\[ \begin{equation} L_{m1} = \frac{N_{1}^{2}}{R_{m}} = \mu_{0} \mu_{r} \frac{N_{1}^{2} S_{e}}{l_{e}} \end{equation} \]
\[ \begin{equation} i_{m1} = i_{1} + \frac{N_{2}}{N_{1}} i_{2} = i_{1} + N_{12} i_{2}\end{equation} \]
よって
\[ \begin{equation} N_{1} \phi_{m} = L_{m1} i_{m1} \end{equation} \]
ここで、$i_{m1}$は1次側からみたときの1次・2次電流の総和であり、上式は、1次側に注目したとき$i_{m1}$が磁束$\phi_{m}$を励磁することを表している。よって$i_{m1}$は1次側からみた励磁電流と呼ばれ、$N_{1}$倍した励磁磁束$\phi_{m}$に比例する。この比例定数が1次側から見た励磁インダクタンス$L_{m1}$である。2次側から見た場合には、上式の両辺に$N_{12} = N_{2} / N_{1}$を乗じて、
\[ \begin{equation} N_{2} \phi_{m} = L_{m2} i_{m2} \end{equation} \]
\[ \begin{equation} L_{m2} = \mu_{0} \mu_{r} \frac{N_{2}^{2} S_{e}}{l_{e}} \end{equation} \]
\[ \begin{equation} i_{m2} = \frac{1}{N_{12}} i_{1} + i_{2} \end{equation} \]
となり、$L_{m2}$、$i_{m2}$はそれぞれ2次側から見た励磁インダクタンス、励磁電流である。また、$L_{m2}$、$i_{m2}$は$L_{m1}$、$i_{m1}$を用いて次式で表される。
\[ \begin{equation} L_{m2} = N_{12}^{2} L_{m1} \end{equation} \]
\[ \begin{equation} i_{m2} = \frac{1}{N_{12}} i_{m1} \end{equation} \]

1次・2次漏れ磁束の巻き数倍も1次・2次電流に比例するため、1次・2次側漏れインダクタンス$L_{l1}$、$L_{l2}$はそれぞれ次式で定義される。
\[ \begin{equation} N_{1} \phi_{l1} = L_{l1} i_{1} \end{equation} \]
\[ \begin{equation} N_{2} \phi_{l2} = L_{l2} i_{2} \end{equation} \]

1次・2次誘起電圧

1次・2次コイルに生じる誘起電圧はファラデーの法則より、各コイルを鎖交する全磁束の時間微分に巻き数を乗じたものとなる。
\[ \begin{equation} v_{1} = N_{1} \frac{d}{dt} \left( \phi_{l1} + \phi_{m} \right) \end{equation} \]
\[ \begin{equation} v_{2} = N_{2} \frac{d}{dt} \left( \phi_{l2} + \phi_{m} \right) \end{equation} \]
各式を、1次側からみたインダクタンスと電流で書き換えると
\[ \begin{equation} \begin{split} v_{1} &= L_{l1} \frac{d i_{1}}{dt} + L_{m1} \frac{d i_{m1}}{dt} \\ &= L_{l1} \frac{d i_{1}}{dt} + L_{m1} \frac{d}{dt} \left( i_{1} + N_{12} i_{2} \right) \end{split} \end{equation} \]
\[ \begin{equation} \begin{split} v_{2} &= L_{l2} \frac{d i_{2}}{dt} + L_{m2} \frac{d i_{m2}}{dt} \\ &= L_{l2} \frac{d i_{2}}{dt} + N_{12} L_{m1} \frac{d}{dt} \left( i_{1} + N_{12} i_{2} \right) \end{split} \end{equation} \]
これらの式は1次・2次の電圧電流関係を表している。

変圧器の等価回路

T型等価回路

変圧器の電圧・電流関係式を再掲する。
\[ \begin{equation} \begin{split} v_{1} &= L_{l1} \frac{d i_{1}}{dt} + L_{m1} \frac{d}{dt} \left( i_{1} + N_{12} i_{2} \right) \\ v_{2} &= L_{l2} \frac{d i_{2}}{dt} + N_{12} L_{m1} \frac{d}{dt}\left( i_{1} + N_{12} i_{2} \right) \end{split} \end{equation} \]
ここで
\[ \begin{equation} N_{12} = \frac{N_{2}}{N_{1}} \end{equation} \]
T型等価回路
よって、1次側から見た励磁インダクタンス$L_{m1}$を用いた変圧器のT型等価回路は上図の左に示される。2次側から見た励磁インダクタンス$L_{m2}$を用いた変圧器のT型等価回路は上図の右のようになる。また、上図の下部は漏れインダクタンスを1次側・2次側に変換した等価回路である。上図4つの回路は全く等価であり、いずれの回路を用いた場合でも同様の特性を得られる。

上図の等価回路では変圧器で生じる損失を考慮していない。変圧器で生じる主な損失には、巻き線抵抗による銅損と、巻き線やコアで生じる渦電流による鉄損がある。銅損は1次・2次漏れインダクタンスに直列に銅損抵抗$R_{c1}$、$R_{c2}$を接続し、鉄損は励磁インダクタンスに並列に鉄損抵抗$R_{m1}$($R_{m2}$)を接続することで考慮される。これらの損失抵抗を含めた1次側から見た変圧器の電圧・電流方程式は次式となり、T型等価回路は下図のようになる。
\[ \begin{equation} \begin{split} v_{1} &= R_{c1} i_{1} + L_{l1} \frac{d i_{1}}{dt} + \frac{R_{m1} L_{m1}}{R_{m1} + L_{m1}} \frac{d}{dt} \left( i_{1} + N_{12} i_{2} \right) \\ v_{2} &= R_{c2} i_{2} + L_{l2} \frac{d i_{2}}{dt} + N_{12} \frac{R_{m1} L_{m1}}{R_{m1} + L_{m1}} \frac{d}{dt}\left( i_{1} + N_{12} i_{2} \right) \end{split} \end{equation} \]
損失抵抗を追加したT型等価回路
銅損は$R_{c1} i_{1}^{2} + R_{c2} i_{2}^{2}$であり、巻き線に流れる電流の2乗に比例する。鉄損抵抗は励磁インダクタンスに並列に接続されるため、この並列回路において、励磁磁束の変化が大きくなるほど励磁インダクタンスのインピーダンスが増加して鉄損抵抗成分が支配的となり、鉄損が増加する。

2次側電圧$v_{2}$を1次側電圧$v_{1}$を用いて表すと
\[ \begin{equation} v_{2} = N_{12} v_{1} - N_{12} \left( R_{c1} + L_{l1} \frac{d}{dt} \right) i_{1} + \left( R_{c2} + L_{l2} \right) \frac{d i_{2}}{dt}\end{equation} \]
となる。よって、実際の変圧器は理想変圧器と比較して、銅損抵抗と漏れインダクタンスによる電圧降下分だけ変圧した電圧の大きさが小さくなる。さらに銅損抵抗と鉄損抵抗による損失が発生する。また、1次側電流と2次側電流の巻き数比倍の和は励磁インダクタンスに流れる励磁電流となり、理想変圧器のようにゼロとはならない。

T型等価回路は各パラメータと物理量との関係が明瞭であるが、各パラメータの実測が容易ではない。そこで、実測によるパラメータの推定が容易なL型等価回路が用いられる。

L型等価回路

L型等価回路はT型等価回路を等価変形することで得られる。損失抵抗は無視する。励磁インダクタンスと1次・2次漏れインダクタンスを2次側に変換した等価回路の電圧・電流式は次式で表される。
\[ \begin{equation} \begin{split} v_{1} &= \frac{1}{N_{12}} \left\{ N_{12}^{2} L_{l1} \frac{d}{dt} \frac{i_{1}}{N_{12}} + L_{m2} \frac{d}{dt} \left( \frac{i_{1}}{N_{12}} + i_{2} \right) \right\} \\ &= \frac{1}{N_{12}} \left\{ \left( N_{12} L_{l1} + \frac{L_{m2}}{N_{12}} \right) \frac{d i_{1}}{dt} + L_{m2} \frac{d i_{2}}{dt} \right\} \\ &= \frac{L_{m2}}{N_{12}} \left\{ \left( \frac{1}{N_{12}} + N_{12} \frac{L_{l1}}{L_{m2}} \right) \frac{d i_{1}}{dt} + \frac{d i_{2}}{dt} \right\} \\ v_{2} &= L_{l2} \frac{d i_{2}}{dt} + L_{m2} \frac{d}{dt} \left( \frac{i_{1}}{N_{12}} + i_{2} \right) \end{split} \end{equation} \]
上式において
\[ \begin{equation} L_{m2}^{\prime} = \frac{L_{m2}}{N_{12}^{2} L_{l1} + L_{m2}} L_{m2} \end{equation} \]
\[ \begin{equation} \frac{1}{N_{12}^{\prime}} = \frac{1}{N_{12}} + N_{12} \frac{L_{l1}}{L_{m2}} = \left( \frac{L_{m2}}{L_{m2}^{\prime}} \right) \frac{1}{N_{12}}\end{equation} \]
とすると$v_{1}$は次式のように変形される。
\[ \begin{equation} v_{1} = \frac{L_{m2}^{\prime}}{N_{12}^{\prime}} \left( \frac{d}{dt} \frac{i_{1}}{N_{12}^{\prime}} + \frac{d i_{2}}{dt} \right) \end{equation} \]
さらに
\[ \begin{equation} L_{l2}^{\prime} = L_{l2} + L_{m2} - L_{m2}^{\prime} \end{equation} \]
とすると、電圧・電流関係式は次式のようになる。
\[ \begin{equation} \begin{split} v_{1} &= \frac{L_{m2}^{\prime}}{N_{12}^{\prime}} \frac{d}{dt} \left( \frac{i_{1}}{N_{12}^{\prime}} + i_{2} \right) \\ v_{2} &= L_{l2}^{\prime} \frac{d i_{2}}{dt} + L_{m2}^{\prime} \frac{d}{dt} \left( \frac{i_{1}}{N_{12}^{\prime}} + i_{2} \right) \end{split} \end{equation} \]
よってT型等価回路は下図のようなL型等価回路に、等価に変形可能である。L型等価回路の各パラメータは物理的な意味を持たない。下図の一番下は理想変圧器を右側に移動させた場合であり、各パラメータは次式で得られる。
\[ \begin{equation} L_{m}^{\prime} = \frac{L_{m2}^{\prime}}{N_{12}^{\prime \: 2}} = L_{l1} + \frac{L_{m2}}{N_{12}^{2}} = L_{l1} + L_{m1} \end{equation} \]
\[ \begin{equation} L_{l}^{\prime} = \frac{L_{l2}^{\prime}}{N_{12}^{\prime \: 2}} = \frac{L_{l2}}{N_{12}^{\prime \: 2}} + \left( 1 + N_{12}^{2} \frac{L_{l1}}{L_{m2}} \right) L_{l1} = \frac{L_{l2}}{N_{12}^{\prime \: 2}} + \left( 1 + \frac{L_{l1}}{L_{m1}} \right) L_{l1} \end{equation} \]
L型等価回路
1次側漏れインダクタンス$L_{l1}$が$L_{m2}$よりも非常に小さいとすると、$L_{l1} \approx 0$と近似することができる。このとき
\begin{align} L_{m2}^{\prime} = L_{m2} \qquad N_{12}^{\prime} &= N_{12} \qquad L_{l2}^{\prime} = L_{l2} \\ L_{l}^{\prime} = \frac{L_{l2}}{N_{12}^{2}} \qquad L_{m}^{\prime} &= \frac{L_{m2}}{N_{12}^{2}} = L_{m1} \\ \end{align}
となる。

損失を無視したモデルにおいて、T型等価回路では3つのパラメータ$L_{l1}$、$L_{l2}$、$L_{m1}$($L_{m2}$)、を測定する必要がある。一方でL型等価回路では$L_{l1} \approx 0$と近似することで2つのパラメータ$L_{l}^{\prime}$、$L_{m}^{\prime}$のみを測定すれば等価回路を構成可能である。

変圧器の結合係数

自己インダクタンスと相互インダクタンス

1次側コイルに鎖交する全磁束の巻き数倍とインダクタンス、電流の関係式は次式で表される。
\[ \begin{equation} \begin{split} N_{1} \left( \phi_{l1} + \phi_{m} \right) &= L_{l1} i_{1} + L_{m1} \left( i_{1} + N_{12} i_{2} \right) \\ &= \left( L_{l1} + L_{m1} \right) i_{1} + N_{12} L_{m1} i_{2} \end{split} \end{equation} \]
右辺の第1項は1次側コイルに鎖交する磁束の中で1次側電流$i_{1}$によって励磁される磁束$\phi_{11}$の巻き数倍を表し、第2項は1次側コイルに鎖交する磁束の中で2次側電流$i_{2}$によって励磁される磁束$\phi_{12}$の巻き数倍を表す。
\[ \begin{equation} N_{1} \phi_{11} = \left( L_{l1} + L_{m1} \right) i_{1} = L_{11} i_{1} \end{equation} \]
\[ \begin{equation} N_{1} \phi_{12} = N_{12} L_{m1} i_{2} = M_{12} i_{2} \end{equation} \]
ここで、$\phi_{11}$に対する$i_{1}$の比例定数$L_{11}$を1次側コイルの自己インダクタンス、$\phi_{12}$に対する$i_{2}$の比例定数$M_{12}$を1次側コイルの相互インダクタンスと呼ぶ。前述した1次側コイルの誘起電圧$v_{1}$は$L_{11}$と$M_{12}$を用いて次式によっても表すことができる。
\[ \begin{equation} v_{1} = L_{11} \frac{d i_{1}}{dt} + M_{12} \frac{d i_{2}}{dt} \end{equation} \]
同様にして、2次側コイルについても
\[ \begin{equation} N_{2} \phi_{22} = \left( L_{l2} + L_{m2} \right) i_{2} = L_{22} i_{2} \end{equation} \]
\[ \begin{equation} N_{2} \phi_{21} = \frac{1}{N_{12}} L_{m2} i_{1} = M_{21} i_{1} \end{equation} \]
\[ \begin{equation} v_{2} = L_{22} \frac{d i_{2}}{dt} + M_{21} \frac{d i_{1}}{dt} \end{equation} \]
によって、2次側コイルに鎖交する磁束の中で2次側電流$i_{2}$によって励磁される磁束$\phi_{22}$、2次側コイルに鎖交する磁束の中で1次側電流$i_{1}$によって励磁される磁束$\phi_{21}$、2次側コイルの自己インダクタンス$L_{22}$、2次側コイルの相互インダクタンス$M_{21}$が定義される。ここで、次式が自明である。
\[ \begin{equation} M = M_{12} = M_{21} \end{equation} \]

結合係数

1次側・2次側それぞれにおいて漏れインダクタンスと励磁インダクタンスの和に対する励磁インダクタンスの比を$k_{1}$、$k_{2}$とする。
\[ \begin{equation} \begin{split} k_{1} &= \frac{L_{m1}}{L_{l1} + L_{m1}} \\ k_{2} &= \frac{L_{m2}}{L_{l2} + L_{m2}} \end{split} \end{equation} \]
$k_{1}$、$k_{2}$は1次側・2次側それぞれにおいて、総インダクタンスに占める励磁インダクタンスの比であり、$k_{1}=k_{2}=1$のとき漏れインダクタンス(漏れ磁束)はゼロであり、$k_{1}=k_{2}=0$のとき励磁インダクタンス(励磁磁束)はゼロである。
$k_{1}$と$k_{2}$の相乗平均を計算すると
\[ \begin{equation} \sqrt{k_{1} k_{2}} = \sqrt{\frac{L_{m1} L_{m2}}{\left( L_{l1} + L_{m1} \right) \left( L_{l2} + L_{m2} \right)}} = \frac{M}{\sqrt{L_{11} L_{22}}} = k \end{equation} \]
となり、結合係数$k$が得られる。

まとめ

変圧器内部に3種類の磁束が存在することから、漏れ・励磁インダクタンスを定義して、変圧器の電圧・電流関係式を導出した。この関係式に基づいて、変圧器のT型等価回路を示し、T型等価回路よりもパラメータの測定が容易なL型等価回路も導出した。最後に漏れ・励磁インダクタンスと自己・相互インダクタンスや結合係数との関係を検討し、漏れ・励磁インダクタンスから自己・相互インダクタンスおよび結合係数を計算可能であることを示した。一方で、自己・相互インダクタンスおよび結合係数の検討が十分でないため、次の記事では自己・相互インダクタンスおよび結合係数から変圧器の等価回路を構成する予定である。

参考

  1. ayumi, 「1.2 トランスの等価回路」, ayumi.cava.jp, http://ayumi.cava.jp/audio/pow/node3.html (Accessed Sep. 28, 2022)
  2. 白藤 立, 「第8章 相互インダクタンスと変成器 (変圧器)」, t-shirafuji.jp, http://t-shirafuji.jp/lecture_notes/electric_circuits_i_open/Ch08.pdf (Accessed Sep. 28, 2022)
  3. 平地 克也, 「平地研究室技術メモ No.20071118 変圧器の基本」, hirachi.cocolog-nifty.com, http://hirachi.cocolog-nifty.com/kh/files/20071118-1.pdf  (Accessed Oct. 3, 2022)
  4. 平地 克也, 「平地研究室技術メモ No.20141004 変圧器の漏れ磁束と漏れインダクタンス」, hirachi.cocolog-nifty.com, http://hirachi.cocolog-nifty.com/kh/files/20141005-1.pdf  (Accessed Oct. 3, 2022)
  5. Electrical Information, 「トランスの漏れインダクタンスとは?計算・測定方法などを解説!」, detail-infomation.com, https://detail-infomation.com/transformer-leakage-inductance/  (Accessed Oct. 3, 2022)

付録

π型等価回路

変圧器において動作周波数よりも高周波の成分を考慮する場合、浮遊容量を等価回路に追加する必要がある。浮遊容量を考慮した等価回路は複数あり、用途に応じてどの浮遊容量を考慮した等価回路を用いるか決定する。よく用いられる等価回路は巻き線の浮遊容量を考慮したπ型等価回路であり、下図で示される。ここで$C_{1}$、$C_{2}$はそれぞれ1次・2次側巻き線の浮遊容量である。
浮遊容量を追加したT型等価回路

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変圧器の動作と内部磁束

前書き この記事では、変圧器の基本的な動作と変圧器内部の磁束について紹介する。変圧器は磁気結合を利用して、簡単に交流電圧を変圧することができる。変圧器の各コイルが発生させる磁束は互いに打ち消しあうため、変圧器の内部磁束は小さくなる。特に変圧器の片側が電圧源に接続されるとき...