2023年11月26日日曜日

変圧器の動作と内部磁束

前書き

この記事では、変圧器の基本的な動作と変圧器内部の磁束について紹介する。変圧器は磁気結合を利用して、簡単に交流電圧を変圧することができる。変圧器の各コイルが発生させる磁束は互いに打ち消しあうため、変圧器の内部磁束は小さくなる。特に変圧器の片側が電圧源に接続されるとき、変圧器の内部磁束は、変圧器に流れる電流の大きさに関係なく、周期的な値となる。最初に理想変圧器と現実の変圧器を比較しつつ、変圧器の原理を確認する。次に、変圧器の2次側を短絡・開放・負荷接続した各回路状態において、変圧器の2つのコイルに鎖交する励磁磁束とコイル電流・電圧の状態を検討する。

理想変圧器と実際の変圧器

変圧器の回路記号
変圧器の回路記号は一般に上図が使用される。図の左側を1次側、右側を2次側として、1次側の電圧と電流をそれぞれ$v_{1}$、$i_{1}$、2次側の電圧と電流をそれぞれ$v_{2}$、$i_{2}$とする。変圧比が$N$の変圧器の理想的な特性を下記に示す。
\begin{equation} v_{2} = N v_{1} \end{equation}
\begin{equation} v_{1} i_{1} = -v_{2} i_{2} \end{equation}
またこれらの関係が成立するとき
\begin{equation} i_{1} = -N i_{2} \end{equation}
したがって、理想変圧器の特徴は下記のようになる。
  1. 任意の1次側電圧$v_{1}$を$N$倍した電圧$v_{2}$(2次側電圧)に変換する。
  2. 変圧器での損失はなく、1次側と2次側の瞬時電力の絶対値は等しい。
  3. 1次側と2次側を電気的に絶縁する。
理想変圧器は直流電圧を変換することも可能である。

一般的には、2つの磁気結合したコイルと透磁率の高い磁性材(コア)を用いて変圧器を構成する。このような変圧器は、理想変圧器と比較して、下記の特徴を持つ。
  1. 1次側電圧$v_{1}$を、ほぼ1次側・2次側コイルの巻き数比倍した電圧$v_{2}$(2次側電圧)に変換する。
  2. 変圧器はわずかな損失を発生し、1次側と2次側の有効電力の絶対値は異なる。
  3. 1次側と2次側を電気的に絶縁する。
よって、1次側コイルの巻き数を$N_{1}$、2次側コイルの巻き数を$N_{2}$とすると、
\[ \begin{equation} v_{2} \approx N_{12} v_{1} = \frac{N_{2}}{N_{1}} v_{1} \end{equation} \]

変圧器の原理

変圧器の磁束
変圧器は2つのコイルの磁気結合を利用して、磁束を介して変圧を行う。まず1次側コイルに電流が流れると、アンペールの法則に従って1次側コイルから磁束が発生する。この磁束が2次側コイルに鎖交するとファラデーの法則に従って、この磁束を打ち消すように2次側コイルに誘起電圧が生じる。2次側コイルに電流が流れると1次・2次側コイルから生じた磁束は打ち消しあうため、変圧器内部の磁束は1次・2次側コイルから生じた磁束の差となる。この1次・2次コイルの両方を鎖交する磁束を励磁磁束$\phi_{m}$、1次/2次コイルの片方のみを鎖交する磁束をそれぞれ1次/2次漏れ磁束$\phi_{l1}$、$\phi_{l2}$とする。

変圧器の動作

簡単のため$\phi_{l1} = \phi_{l2} = 0$とする。コア内部磁束の一様分布を仮定して、コアの有効磁路長を$l_{e}$、有効断面積を$S_{e}$、真空の透磁率を$\mu_{0}$、コアの比透磁率を$\mu_{r}$とする。 変圧器内部の磁束$\phi_{m}$のほとんどは、透磁率の高いコアを通る経路となるため、$\phi_{m}$の磁気抵抗$R_{m}$を次式で表す。
\begin{equation} R_{m} = \frac{l_{e}}{\mu_{0} \mu_{r} S_{e}} \end{equation}
1次側コイルの巻き数を$N_{1}$、2次側コイルの巻き数を$N_{2}$として、$N_{12}$は次式で与える。
\[ \begin{equation} N_{12} = \frac{N_{2}}{N_{1}} \end{equation} \]

2次側コイル開放

2次側コイルを開放したとき($i_{2} = 0$)を考える。1次側コイルの電流$i_{1}$が流れることで生じる変圧器内部の磁束$\Phi_{m}$は、アンペールの法則より、次式で得られる。
\begin{equation} \phi_{m} = \frac{N_{1} i_{1} + N_{2} i_{2}}{R_{m}} = \frac{N_{1} i_{1}}{R_{m}} \end{equation}
このとき、$\phi_{m}$によって誘起される2次側電圧$v_{2}$は、ファラデーの法則より、次式で得られる。
\begin{equation} v_{2} = N_{2} \frac{d \phi_{m}}{dt} \end{equation}
なお、1次側電圧$v_{1}$も$\phi_{m}$により誘起される。
\begin{equation} v_{1} = N_{1} \frac{d \phi_{m}}{dt} \end{equation}
いま、2次側コイルが開放されており、$i_{2} = 0$であるため、2次側コイルは磁束を生じず、変圧器内部の磁束は打ち消されない。

2次側コイル短絡

2次側コイルを短絡したとき($v_{2} = 0$)を考える。先ほどと同様、1次側コイルの電流$i_{1}$が流れることで生じる変圧器内部の磁束$\phi_{m}$は、アンペールの法則より、次式で得られる。
\begin{equation} \phi_{m} = \frac{N_{1} i_{1} + N_{2} i_{2}}{R_{m}} \end{equation}
2次側コイル電圧$v_{2} = 0$であるため、ファラデーの法則より磁束は一定値となる。特にコイルには電流が流れているため、十分に時間が経過すると残留する磁束はコイルの抵抗成分によりゼロとなるため、次式が成り立つ。
\begin{align} v_{2} &= N_{2} \frac{d \phi_{m}}{dt}= 0 \notag \\ \phi_{m} &= 0 \end{align}
よって
\begin{equation} N_{1} i_{1} = -N_{2} i_{2} \end{equation}
となる。上式は理想変圧器と同じ電流特性であるとともに、1次側コイルの電流$i_{1}$と2次側コイルの電流$i_{2}$により生じる磁束が完全に相殺して、変圧器内部に磁束が生じない状態を表している。

2次側負荷接続

2次側コイルに抵抗$R$を接続した場合($v_{2} = -R i_{2}$)を考える。先ほどと同様、1次側コイルの電流$i_{1}$が流れることで生じる変圧器内部の磁束$\phi_{m}$は、アンペールの法則より、次式で得られる。
\begin{equation} \phi_{m} = \frac{N_{1} i_{1} + N_{2} i_{2}}{R_{m}} \label{eq:trans_r_current} \end{equation}
このとき、$\phi_{m}$によって誘起される2次側電圧$v_{2}$は、ファラデーの法則より、次式で得られる。
\begin{equation} v_{2} = N_{2} \frac{d \phi_{m}}{dt} = \frac{N_{2}}{N_{1}} v_{1} \label{eq:trans_r_phi} \end{equation}


1次側コイルが電圧源に接続されているとき、\eqref{eq:trans_r_phi}より$\phi_{m}$は$v_{1}$によって計算されるため、$\phi_{m}$は$v_{1}$に依存する。このとき\eqref{eq:trans_r_current}より
\begin{equation} N_{2} i_{2} = -N_{1} i_{1} + R_{m} \phi_{m} = -N_{1} i_{1} + R_{m} \: \int{v_{1} \:  dt} \end{equation}
つまり、変圧器の内部磁束$\phi_{m}$は$v_{1}$によってのみ決まり、変圧器に流れる電流には依存しない。例えば、負荷$R$の抵抗値が小さくなり、$i_{2}$が増加した場合でも、上式に従って、$i_{1}$が増加して相殺される磁束が増えるだけで、$\phi_{m}$は変化しない。よって1次側コイルが電圧源に接続されているとき、変圧器の内部磁束は負荷によらず一定値か周期的な値となる。この磁束は$v_{1}$と巻き数から計算可能である。

 あとがき

この記事では、変圧器の基本的な動作と変圧器内部の磁束について紹介した。変圧器の各コイルが発生させる磁束は互いに打ち消しあい、変圧器の内部磁束は小さくなる。特に変圧器の片側が電圧源に接続されるとき、変圧器の内部磁束は、変圧器に流れる電流の大きさに関係なく、周期的な値となることを確認した。

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